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アウディジャパン Design
Marc Lichte's Audi e-Design

Marc Lichte's Audi e-Design

電気自動車の登場によって、変わりつつある未来の自動車のデザイン。
Audiデザイン統括責任者のマーク リヒテが語る、Audi e-tronのエクステリアデザインとは。

Report: Bernd Zerelles - Photo: Robert Fischer - Film: graupause

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「車のデザイナーにとって、これほどエキサイティングな時代はありません。今こそが、自動車のデザインを根底から考え直すことができる、つまり未来の車に繋げられるようなデザインを設計できる時代なのです。モビリティーの電動化がその道を切り開いています。車のデザインというものは過去100年間、同じようなアプローチで設計されていました。全ての中心にあったのは自動車の心臓とも言えるエンジンであり、そしてその周りに見栄えの良いボディーをデザインし、最後にインテリアが設計されていたのです。」

「将来、アプローチは真逆になります。なぜなら、電気自動車では車の中心となるエンジンが存在しないから。それはつまり、お客様の要望を重視したデザインが可能になるということです。車の用途は?長距離のドライブなのか、市街地での運転なのか、もしくは運転の楽しさを重視したいのか。インテリアの好みは?車の中で快適に仕事や読書をしたり、睡眠をとることができるか。そのようなことをまず考慮してから、最後にエクステリアのデザインに取り掛かることができるようになります。」

「私たちは明確な戦略を持って変革を遂げようとしています。奇抜なデザインでお客様を遠ざけることはしません。モビリティーの電動化では、これまでの概念とは全く違ったアプローチで、世の中のオープンな意見を必要とします。私たちはお客様と共に未来へと向かって進んで行くのです。そのようにして、Audiでは新しい電動車が開発されるたびにデザインを進化させていきます。しかし、ひとつだけ変わらないことがあります。それは、Audiがデザインするモデル全てが魅力的だということ。それこそが、私たちデザインチームがコミットしているAudiの信念だからです。」

プロポーションのマジック

「優れたデザインの根本には、まずプロポーションがあります。電気自動車のプラットフォームは、私たちデザイナーが長年夢見たプロポーションを自由に設計させてくれます。私たちは、最初に車のスケッチを描くとき、必ず大きなホイールと短いオーバーハングを描きます。とても抽象的な絵になりますが、ファッションデザイナーがドレスのデザインをするときに、モデルの脚を誇張して長く描くのと似ています。

そんな私たちが描いていたような車のプロポーションが、電動化により実現しようとしています。Audi e-tronのモーターは車の軸に搭載され、その間のフロアスペースにバッテリーが搭載されています。車内中央のキャビンスペースは面積が広がり、重量を支えるための大きなホイールを外側に出すように設定しました。ボンネットの下にはエンジンがないので、Aピラーは今までよりもぐんと前に。大きなホイールベースに大きなホイール、そして短いオーバーハング。完全に生まれ変わった新しいプロポーションこそが、電気自動車の大きな特徴なのです。」

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ひと目見れば分かる、Audiの顔


「多くの先進的な高級自動車メーカーと同様に、Audiには長く続く伝統があります。私たちは新規ビジネスとして白紙の状態から電動車をデザインしているわけではありません。Audiのシグネチャーとなっているフロントのシングルフレームグリルは私たちの車を他のどの車からも際立たせる、Audiの顔なのです。

Audiのシングルフレームはラジエーターと上下で繋がり、ひとつのユニットを構成します。しかし、電気自動車でラジエーターが必要無い場合はどうすれば良いのか?どうすればAudiらしい電気自動車ができるのか?それに答えるために、私たちのチームはシンプルで独創的なアイデアを思いつきました。これまでエンジン車では、搭載されたラジエーターの換気のためシングルフレームグリルは常に開いており、そのため必ず黒色が使用されてきました。しかし、Audi e-tronでは、シングルフレームをボディーカラーに塗装して回りを暗く囲うことで、これまでのグリルと比べると視覚的に反転させています。その結果、遠くから見てもAudiだと認識でき、またそれが電気自動車だということも分かります。Audiを象徴するシングルフレーム。それは電気自動車においてもあてはまるのです。」

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Audiの進化を現すライティングテクノロジー

「私たちのデザインはとにかく「Audiらしい存在感」を全面に出せるものにしなくてはなりません。同時に電気自動車として「未来を感じさせる」明確な要素も必要です。そして未来と言えばやはりデジタル化。まさしく、Audi e-tronのライトそのものです。Audi e-tronコンセプトの量産モデルには私たちが誇るデジタルデイタイムランニングライトが装備されています。このライトの素晴らしいところは、オーナーが自ら、フロントヘッドライトのグラフィックを好みに合わせてデザインできるところです。ライトのシルエットに3つのXマークを入れたい人もいれば、水平な列が好みの人もいます。これは単なるカスタムではなく、目に見えるデジタル化なのです。これは、アニメーション化されたライトストリップを搭載したテールライトでも同じことができます。」

「私たちは、将来的にヘッドライトが通行人とコミュニケーションをとれるような技術の開発に取り組んでいます。これは自動運転には必要不可欠な条件です。例えば、車が自動運転をしている間にドライバーはメールを読んでいる…など、ドライバーと通行人が直接目を合わせなくなるかもしれません。そのような場合にヘッドライトがドライバーに変わって通行人とコミュニケーションをとる役目を果たすのです。」

「デジタルライトに関しては、私たちの技術は一歩ずつ前進しています。将来、全てのAudi e-tronはこれらの技術を備えているでしょう。」

Audi Q4 e-tronの量産モデルでは該当のヘッドライトオプションの選択で、デジタルデイタイムランニングライトのグラフィックを事前にセレクト可能

心臓部を飾るサイドシル

「電動車では車の心臓はボンネット下のエンジンではなく、フロアに搭載されたバッテリーです。今後はその容量や重量、可能な走行距離などが注目されるでしょう。また、全てのAudi e-tronには、その鼓動が刻まれる心臓部の位置を明確に表すサイドシルがデザインされています。逆にフロントのボンネットは落ち着いたデザインに。ボンネットのパワードームはもはや過去のデザインとなるのです。」

「バッテリーに関してもうひとつ。従来のシングルフレームとは違い、Audi e-tronのシングルフレームの全面と左右の吸気口はルーバー状になっています。これにより、フロアに搭載されたバッテリーに空気を送って冷却します。バッテリーは熱を持つと充電が遅くなるからです。Audi e-tronには優れた効率の冷却システムが備わっており、短時間で充電を行うことができます。」

フロントの吸気口から送られる空気がバッテリーを冷却

quattroの遺伝子を示唆するフォルム

「Audi のエンジン車は、エッジを効かせたデザインが特徴的です。それに対して将来のAudi e-tronのデザインは、穏やか且つ、くっきりとした筋肉質なフォルムが特徴と言えます。私たちは車のデザインを通してドライブシステムの進化を表現しようとしているのです。これまで何十年にも渡ってデザインに取り入れてきた一定の高さに伸びるショルダーラインを、今回は車両の側面中央で中断し、さらに下に下げることで車の前後のシルエットを強調しています。これにより穏やかなラインで4つのホイール全てが引き立つのです。」

「また、これはAudiの遺伝子に深く刻まれたquattroドライブシステムを彷彿とさせます。Audi e-tronにも四輪駆動を使用するオプションが存在するためです。」

Marc Lichte Head of Audi DesignMarc Lichte Head of Audi Design

これまで以上に重要なエアロダイナミクス

「Audiブランドに刻まれているのは、その革新的なデザインだけではありません。サステイナビリティという先進的な考えもまた重要な要素のひとつです。ご存じの通りAudiの車は全て、できる限り高効率にするために風洞実験を行って開発されています。風の抵抗が少ないということは、より少ないエネルギー資源での走行を可能にします。そのため、私たちはAudi e-tronでもエアロダイナミクスのデザインに細心の注意を払っています。電気自動車では他の多数の要素と同様に、エアロダイナミクスによって一充電走行距離を延ばすことができます。デザイナーとして、私たちはそこに全力を尽くす義務があるのです。」


Cピラー上のフライングルーフとリヤのサイドシルが空気の流れを最適化

「Audi e-tronのボディーは流れる雫のような形状で、高速で走っているような滑らかなルーフを備えています。そのラインはリヤに向かって先細り、意図的に鋭く分離させたエッジに流れ込みます。サイドには前後のホイールの輪郭を繋ぐ真っすぐなエッジが強調され、アンダーボディ全体には、リヤディフューザーに自然と流れ込む合理化されたパネルを装備しています。また、新しいホイールはスポーティーなスポーク付きホイールを彷彿とさせる形状でありながら、エアロダイナミクスを考慮したトリムを備えています。」

「そして大切なことをもう一つ。バーチャルエクステリアミラーも空気抵抗の軽減に貢献すると同時に、我々の『技術による先進』を体現しているものだということをお忘れなく。」

ホイールにあしらわれたトリムとバーチャルエクステリアミラーが空気抵抗を最適化

 

スマートなサステイナビリティ

「私たちはあらゆるアプローチでサステイナビリティを意識しています。例えば、Audi e-tronでは太陽光をより反射できる塗料を開発しました。そのため、車体の温度の上昇を抑えることができ、クーラーの使用も最低限に留めることができます。結果的にバッテリーに蓄えられた貴重なエネルギーの消費量も抑えることができるのです。」

「最後にe-tronのインテリアについて少しお話しましょう。近い将来、高級車に使用されているレザーはリサイクルされた素材に変わっていきます。Audiもビーガンな素材を使ったインテリアを導入していきます。新しいサステイナブルな電動モビリティードライブシステムのコンセプトは今後インテリアにも次々と取り入れられていくでしょう。」


Marc Lichte Head of Audi DesignMarc Lichte Head of Audi Design
 

Marc Lichte

マーク リヒテ(51)は、プフォルツハイム大学でトランスポーテーションデザインを学び、1996年フォルクスワーゲンでキャリアをスタート。2014年よりAudiデザインの統括責任者に就任。エクステリア及びインテリアデザインの部門だけではなく、400名以上のデザイナーを抱えるチームの責任者、またカラー&トリムの部門責任者でもある。さらにレーシングカーのデザインも担当。2014年にはAudi prologueコンセプトを作成しAudiのラグジュアリーモデルの未来を再定義。その翌年の2015年にはAudi初の電動車のコンセプトであるAudi e-tron quattroのコンセプトを発表。最近ではAI:CON, AI:ME, AI:RACE, AI:TRAILなどのショーカーを通して未来の自動車のコンセプトを示している。


 
Audi Q4 e-tron

Audi Q4 e-tron

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