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アウディジャパン Design
風洞トンネルでの詳細な調査

風洞トンネルでの詳細な調査

エアロダイナミクス(空気力学)の専門家が、
アウディの空力音響風洞でAudi RS e-tron GTのフォルムを完璧に整えます。

Copy: Bernd Zerelles − Photo: Robert Fischer − Film: graupause

風洞トンネルでの詳細な調査

アウディの空力音響風洞のファンを見て最初に気づくのは、風洞ローターに20枚あるブレードの先端とコンクリート側版との間にある隙間です。その距離わずか数センチ。これは精度の低さからくる非効率の現れでしょうか?

アウディのエアロダイナミクス及び空力音響開発責任者モニ・イスラム博士は次のように保証します。「ファンが最大出力2,720㎾で回ると、アルミでコーティングされたブレードに遠心力がかかり隙間はほぼなくなります。」

測定部では最大風速300km/hの風が発生するため、測定時には全員が風洞装置を離れます。20枚ある幅5メートルのブレードがゆっくりと回り始めます。渦巻く気流はファンの下流にある27枚の固定具で安定化されます。その後、空気は2つの角を曲がり、特別に設計された回転羽により均等に分散されて、測定部に向かいます。角やファン付近では避けられない大規模な乱流はベーン下流にある格子で解消します。空気はその後、ハチの巣状の層を通過して気流が整えられ、下流にある集合胴に送られます。その後、収縮率5.5のノズルを通って加速されAudi RS e-tron GTに望ましい速度で到達します。

風洞トンネルでの詳細な調査
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車両は車にかかる空気力学的な力を測定する精密な測定器の上に置かれます。ホイールは4つの小さなベルトに乗っています。車両の下にある幅の広いベルトは、あらゆる走行速度における、道路と車両の動きをシミュレーションできます。それに加えて、車両前方のフロアにある高精度で調整可能な多孔板は、気流でもいわゆる境界層を車両に到達する前に取り除きます。エアロダイナミクスの専門家はこの設計を"フルグランド・シミュレーション"と呼んでいます。こうして車体周辺のリアルな気流が再現されます。複雑そうに聞こえますが、これが実態なのです。

風洞トンネルでの詳細な調査
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完璧な気流を実現するためには、どんな苦労も惜しみません

Audi RS e-tron GTのエアロダイナミクスと空力音響を担当する開発エンジニアのケンタロウ・ゼンス博士は、次のように語ります。「車は風を切って路上を進みます。しかし風洞はそれと正反対です。つまり、静止している車両に可能な限り均等に空気をあてます。そのための苦労は惜しみません。気流と車両の相互作用が正確な場合にのみ、信頼できる正確な測定結果を得ることができるのです。」

ゼンスは、オペレーターが風洞を制御するコントロールパネルの横にあるワークステーションに座ります。そこでは抵抗係数やフロントアクスルの揚力、リヤアクスルの揚力、風速、ベルト速度と言った関連するすべてのデータを画面上で確認することが可能です。

ゼンスの隣に立つのは、ビークルプロジェクトのエアロダイナミクス&空力音響開発責任者のトマス・レデンバッハ。「この風洞センターが稼働した当時、これほど静かな空力音響機能を備え、エアロダイナミクスのために実際の道路状況の地上シミュレーションを組み合わせた自動車用風洞は、これが世界初でした。」と彼は言います。

現在、この風洞は2交代制で週6日、午前7時から午後10時半まで稼働しています。また、乗用車等の国際調和燃費・排出ガス試験方法(WLTP)認証が導入された際には、風洞の性能をフルに活用しました。モニ・イスラムは次のように言います。「これほど複雑な風洞には、長年にわたって毎日運転してくれている姉妹部門の全面的な協力と技術的専門知識が必要でした。当時、WLTP値の証明として風洞の認証データを当局に提出することが義務付けられていたため、風洞作業を行う同僚たちは、私たち開発者に1日あたり23時間の試験時間を提供してくれました。」

抵抗係数が改善されれば、その分だけ車の一充電走行距離が延びます

モニ・イスラム博士

風洞トンネルでの詳細な調査
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シミュレーションは風洞の代わりにはなりません

そうとは言え、エアロダイナミクス開発においてコンピューターシミュレーションは、ますます重要な役割を果たしています。数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)シミュレーションは、コンピュータ上で気流を再現し、流れのパターンの解析や視覚化を可能にします。では、なぜ時間とコストのかかる風洞実験を行うのでしょうか?トマス・レデンバッハは次のように説明します。「風洞は私たちの日常的なツールで、シミュレーションの結果を検証することもできます。シミュレーションを開発し続けたいと思っていますが、それが有効で正確なものであることを保証するために、テスト結果と照らし合わせて計算をチェックする必要があるのです。」

しかし、コンピューターシミュレーションはますます良くなり、その重要性も増しています。Audi RS e-tron GTでは、900万CPU時間以上という非常に多くのシミュレーションを行い、風洞では150時間を費やしました。ちなみにAudi R8では600時間でした。これは、Audi RS e-tron GTの設計の質の高さを示すだけでなく、開発プロセスが大幅に短縮されたことを示しています。

モニ・イスラム博士はこう付け加えます。「風洞とCFDは、エアロダイナミクスの専門家にとって補完的なツールです。風洞は非常に正確で速く、ダイナミックな開発プロセスで非常に効率的に作業することができます。シミュレーションは驚くほど多くの情報を提供してくれますが、モデルの準備や結果の解析に手間がかかります。この2つのツールのうちどちらか一方だけでは、最先端のエアロダイナミクス開発は不可能でしょう。」

私たちは、エアロダイナミクス最適化への残りの20パーセントに膨大な時間を費やしています

トマス・レデンバッハ

一充電走行距離の観点からポテンシャルを活用する

Audi RS e-tron GTのような電気自動車にとって、フルパッケージはエアロダイナミクスの面でもメリットがあります。例えば、クローズド・アンダーボディはその一例と言えるでしょう。しかし、モニ・イスラムが所属する、優秀な31人のスタッフを有するエアロダイナミクス車両開発部門が直面する課題は大きくなっています。モニ・イスラムは彼らの目標を次のように語っています。「抵抗係数を向上させることで、一充電走行距離を伸ばすことが可能です。」

エアロダイナミクスの専門家は、感度を示すシミュレーション結果を通じて、車両が秘める可能性を特定します。つまり車両のある一点の位置をわずかに変えた場合、気流にどれだけの影響を与えるかということです。それについて、イスラムは次のように説明します。「空気は見ることができないので、エアロダイナミクスは綿密な調査作業と言えるでしょう。風洞で測定器が出した値に基づいて、解析的なアプローチで問題を絞り込まなければなりません。」

それを実現するために、エンジニアはラピッドプロトタイピング技術で生成されたさまざまな追加パーツを処理します。まず、部品の形状を決めるためにCADで設計します。例えば、フロントエプロンの吸気口もこうして作られた部品です。そしてモデル管理の担当者が、この先端技術を用いていくつかのバリエーションを含むテスト部品を用意します。その後、部品のさまざまなバリエーションが、モデル上で順番にテストされます。テストでは抵抗係数と揚力係数が計測され、その結果は、全く同じ構成のCFDシミュレーションと選択的に比較され、有効なシミュレーション結果が得られます。

風洞トンネルでの詳細な調査
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あらゆる抵抗を詳しく調べます

「自動車のエアロダイナミクスの80パーセントは、20パーセントの時間で開発することができます。しかし、私たちはエアロダイナミクスの残り20パーセントに膨大な時間を費やしています。つまり、小さな最適化をいくつも重ねることで空気抵抗を減らしているのです。」と、トマス・レデンバッハは風洞での調査作業について語ります。「最高品質の結果を出すためには、このような高レベルの献身と細部へのこだわりが必要なのです。」

では、Audi RS e-tron GTを担当したエアロダイナミクスのエキスパートにとって、このグランツーリスモにおける気流で最も困難だったディテールは何だったのでしょうか。ケンタロウ・ゼンスは、しばらく考えてこう言いました。「4つのダクトが連結されたフロントエプロンです。空気が吸気口に流れ込み、内部のシャッターが閉まると、空気があちこちに逃げてしまいます。そこで気流を制御して、正確に微調整することが重要なのです。それには、車両安全、部品エンジニアリング、生産、組み立ての全部門と一緒に作業しなければならないので、チームワークが必要になります。」

ゼンスはまた、ホイールアーチと連動するいわゆるエアカーテンのデザインについても言及しています。「私たちは、アウディのデザイナーと毎週緊密な連携をとっていました。その結果、エアカーテンを中心としたフロントエンドからサイドへの気流が最適化され、首尾一貫したテーマとして全体のデザインにシームレスにフィットするようになりました。Audi RS e-tron GTのすべてには、機能と目的があります。それは真の機能性であり、私がこのクルマについて気に入っている点なのです。」

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エアロダイナミクスの目的は、デザインをしやすくすることです

ケンタロウ・ゼンス博士

彼には思い入れがあるもう一つの例があります。それはテールライトにあるシャープなエッジです。「Audi RS e-tron GTのリヤには複雑な渦があります。それはリヤの形状がとても立体的なことが原因です。この周辺の気流をきれいに誘導するのは難しい課題です。しかし、シミュレーションでテールライトの周りには、まだ改善の余地があることが分かりました。」

幸いなことに、アウディのライトデザイン責任者であるセザール・ムンタダも、風洞試験に立ち会っていました。彼はすぐにクレイモデルのテールライトのくぼみにわずかな外向きのカーブをつけました。それが市販車にもまったく同じ形で反映されています。この修正によって、デザイナーとエアロダイナミクスの専門家は、内側に向いた気流に新たな渦を発生させるのではなく(これは抵抗係数に大きな影響を与えます)、コントロールされた気流で後方で離れさせることが可能になりました。「エアロダイナミクスでは、デザインをしやすくすることを目指しています。」とケンタロウ・ゼンスはこのコラボレーションを説明します。そこには風洞での詳細な調査も含まれます。

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Audi RS e-tron GT

Audi RS e-tron GT

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