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デジタルによってさらにヒューマンセントリックなデザインになった

デジタルによってさらにヒューマンセントリックなデザインになった

マリブにあるAudi Design Loftのシニアディレクター、ガエル・ビュザンはAudi skysphereをバーチャル上でデザインしました。この大きな変化はデザイナーにとってどのような意味をもたらたすのでしょうか。

Copy: Bernd Zerelles - Photo: Dominik Gigler, AUDI AG

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今回の新しいコンセプトカーはクレイモデルを使わずに全てデジタルで作成したのですか?

ほとんどそうですね。当初はそのつもりでした。でも、実際に車をつくる前に立体的に見ておくことは必要です。クレイモデルを見て、全体のプロポーションを確認するのは大切な事なんです。例えば、今回のAudi skysphereではVRで車全体を見たときに少し低すぎる印象を受けました。

そこで、データを使ってインゴルシュタットで速やかにクレイモデルを造形し、マーク・リヒテに見てもらいました。その結果、彼のアドバイスで座席の頭上のスペースをもう少し高くし、調和が取れました。ただし、今回クレイモデルを使ったのはプロポーションのチェックのためだけです。車体のラインをきれいに出すためのハンドワークは一切施していません。設計構築のプロセスは全てデジタルで行いました。

設計プロセスをバーチャルで行うことは今のデジタル化された世界では理にかなった進化だと思いますか?

将来は確実にバーチャルでの作業が主流になると思います。デジタル化によって、膨大な時間とコストが削減できます。また、私たちのスタジオはマリブにありますが、何千キロも離れたところにいるマーク・リヒテといつでもデジタルモデルを囲んで議論ができるのはとても便利です。それだけでもデジタル化のメリットが十分に感じられました。今までのようにアメリカでモデルを造形して、それをインゴルシュタットに輸送して評価してもらう必要がないのです。すべてオンラインで一瞬で対応できるのです。

デジタル化のもうひとつのメリットは、時差に関係なくプロジェクトをノンストップで推進できる点です。私たちはカリフォルニアで日中に作業しますが、データを送っておけば夜中のうちにインゴルシュタットで評価やプレゼンなどの業務が進み、私たちが朝起きたころには既に回答やフィードバックが来ています。今後もバーチャルが主流になるはずです。とにかく、コストや時間をかなり抑制することができるのです。


デジタルでの設計プロセスについて教えてください。

通常は昔のようにまずはスケッチから始まりますが、そのプロセスはとても短い期間です。2日程度でしょうか。その後、デジタルツールを使って3Dでスケッチをし、ビジョンを形にしていきます。3Dのエキスパートが数日かけて作業をしたら、今度はVRゴーグルを装着しながらマークと共に容量やプロポーションについて議論します。若い世代のデザイナーは3Dでのスケッチを難なくこなしていて私も感心しています。彼らは新しいツールをすぐに使いこなせるようになり、存分に思いを表現できています。

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思い描いたデザインを造形していく喜びは今でも同じ

ガエル・ビュザン

デジタルでの設計プロセスと従来の設計プロセスとの一番大きな違いは何ですか?

2つのプロセスに全く違いが無いとは言えません。人の手で造形していたクレイモデルはとても芸術的で、技術者はまるで彫刻家そのものでした。クレイモデルを使っての作業は、芸術家になったような気分を体験できるものでした。今は新しい時代へと突入しましたが、デジタルな技術でも芸術的な作業ができることも分かっています。デジタルでの作成にもっと精通していけば、芸術的な感覚は戻ってくると思います。

当初はデジタル化すると芸術的な感性が失われていくのではないかと心配していましたが、実際にはそうでないことが分かりました。爪の中に粘土が詰まる感覚は無くなりましたが、思い描いたデザインを造形していく感覚は今でも同じですよ。

Audiのデザインといえばやはりプロポーションです。VRでプロポーションを確認する際、大変なことはありましたか?

当初はVRでの作業を学んで慣れていくのは少し大変でした。車のプロポーションを確認するためにVRの世界に浸らなくてはならないのですが、これは我々にとって初めての試みでした。また、それに輪をかけて初期のVRゴーグルは決して画質の良いものではありませんでした。しかし、ツールは進化し、私たちもそれを使いこなせるようになってきました。デジタル化にあたって一番大きかった課題はまさしく、新しいツールを使いこなせるようになることだったと思います。

デザイナーにとってはやはり、デザインしたものを手で触って確認することが重要なのでしょうか?

そうですね。最終的には物体になるわけですからね。目の前に形として現れるものなので、もちろんデザインを直接見て確かめるに越したことはありません。特に生産する車となると、デザイナーとエンジニアが数ミリ単位の調整で議論したりすることもあります。そのような最終調整は設計構築のプロセスの中では必要不可欠だと思います。造ってきたものが形になる。それは私たちにとって魔法のような瞬間なのです。

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バーチャルデザインによって、車に乗ったときにどのような感覚が味わえるのかを体験できる

ガエル・ビュザン

今回のコンセプトカーをバーチャルで作成するにあたってどのような苦労がありましたか?

全体的にはスムーズなプロジェクトで、小さい問題がいくつかあったくらいでした。例えば、Audi skysphereのリヤバンパーはエッジを強調させたかったのですが、VRで見るときれいだったラインが実際に部品となると少し抑え気味に出てしまいました。とはいえ、このようなことは大きな問題にはつながらず、むしろ失敗を通して色々と学ぶことができました。新しいデータを作成する度にコツをつかみ、次のプロセスへと反映できています。

デジタルでの設計はコンセプトカーのみに適用できる技術でしょうか。市販モデルにも適用できますか?

デジタルでのプロセスは両方に適用できます。ただし、市販モデルではクレイモデルを使った検証により時間をかけます。市販モデルの場合は複合的な観点から生産の妥当性などを確認する必要があるからです。何度も微量な調整を加えていくプロセスなので、その場合はクレイモデルを使った方が良いでしょう。しかし、デジタルでのプロセスは両方とも同じような作業で、それによって得られる「時間」と「コスト」のメリットも同じです。

私がデザイナーになったばかりの頃は実物大のクレイモデルを作成する前に何か月もかけてスケッチを作成しなくてはなりませんでした。それが今は完全に違います。スケッチはたった2週間ほどで、そこからどのデザインテーマをCADで再現するかが選定されます。それから2週間後くらいにはいくつかのデザインをVRで立体的に確認したり、必要に応じては実物大のクレイモデルを作成することもできます。これはデジタルのプロセスならではの強みだと思います。

ヒューマンセントリックなデザインを考えたときに、バーチャルでの設計の長所と短所はなんですか?

実は、デジタルでの設計プロセスではヒューマンセントリックなデザインがより実現しやすくなります。どんな体験になるのかを早い段階で予想することができるからです。例えば、特定の環境に車を置いてエクステリアとインテリアの表面を素材で覆い、スクリーンにデジタルインターフェースを映します。このようにデジタルで簡単に設定すれば、実際に車に乗ったときにお客様がどんな感覚になるのかが体験できるのです。

私が若い時にフォルクスワーゲンでデザイナーだった頃は、実物大のインテリアのクレイモデルに実際の素材を張り付けて再現していました。木目調の部分はイタリアの教会を修復しているアーティストの方にお願いして描いてもらっていました。とにかく大仕事だったのです。それが今では設計者が素材や細部のデザイン、環境や反射するリアルな照明まで、全てを作成できるようになっています。しかも驚くほどの短時間で用意できるのです。特にAudi skysphereのように1台の車で2つの異なる体験を可能にさせる車の開発にはこのプロセスはとても役立ちました。デジタルでの作業はとても有益でした。

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コンセプトカーを開発するということは、新しい生産技術を模索する良い機会にもなりますか?

もちろんです。コンセプトカーを設計する過程で学んだことは市販モデルへの設計にも反映できます。コンセプトカーの設計は短時間で行わなくてはならないため、作業のプロセスをクリエイティブにすることが求められます。なるべく早く作業をこなすために新しい手法を模索したり、効率化をはかるなどしたりして対応しています。

Audi skysphereは3か月で設計し、2か月で製作しました。こんな急スピードで仕上がるなど、夢にも思っていませんでした。しかし、デジタル化によってそれが可能になったのです。今までよりもずっと早く設計作業が進み、エンジニアがそれを形にする過程も非常に早くなりました。このプロセスを通して沢山の驚きやワクワク、そして学びを得ることができます。まるでファッションウィークに向けて準備をしているファッションデザイナーになったような気持ちでしょうか。実際にはあまり着ることのないユニークな服かもしれませんが、縫製テクニックやスタイル、トレンドやブランドの未来のビジョンなど、表現できることが山ほどあるのです。それは我々Audiにとっても同じです。Audi skysphereのコンセプトで魔法のように美しく、エレガントな作品を造ることができました。それは、2つの異なる体験を与えてくれる動く彫刻です。今回この素晴らしい作品を造り上げる鍵となったのがデジタルプロセスだったのです。

Audi skysphere concept

Audi skysphere concept

アウディの3つのコンセプトカーの第1弾となるAudi skysphereはいかにテクノロジーとデザインの融合が新しい体験の世界を開くのか、またどのようにアウディがプレミアムモビリティの未来を率先して創ろうとしているのかを感じさせます。